チャック・ウェンディグ『疫神記』上下巻(茂木健訳、竹書房文庫)と、横田順彌『日露戦争秘話 西郷隆盛を救出せよ』(日下三蔵編、竹書房文庫)をご恵送いただきました。ありがとうございます。
「カーカス・レビュー」「パブリッシャーズ・ウィークリー」ほか全米各誌絶賛の終末SF巨編
西郷隆盛、生存確認!
勅命を受けた中村春吉はシベリアへ向かう!!
極寒の地で快男児を待ち受けるは恐ろしき猛獣共と骸骨監獄、幽霊監獄!
アメリカのオンラインマガジン File770 と Locus Online に第五十三回星雲賞参考候補作発表の記事が掲載されました。
file770.com
拙訳のS・チョウイー・ルウ「沈黙のねうち」(『紙魚の手帖』vol.02掲載)も海外短編部門の参考候補作になっております。
星雲賞はその年の日本SF大会参加者による投票で決定します。投票券は、日本SF大会の参加者、登録者に与えられます。(登録だけでは大会に参加出来ませんが、星雲賞に投票できます)
投票締め切りは六月三十日です。
www.sf-fan.gr.jp
今年の日本SF大会は福島県のふくしま磐梯熱海温泉ホテル華の湯で、八月二十七、二十八日開催です。会場の温泉ホテルに泊まらない、どちらか一日だけの参加もできます。
sf-fcon.com
爪痕 勝山海百合
産まれたばかりの坊ちゃんを抱いて、裏戸からそっと出た。奥様がお産みになった子だが、父親は旦那様ではない。旦那様はもう三年も知事として地方に行ってお戻りでない。これが知れたら奥様は石で打たれて殺されるし、私にも鼻を削がれるくらいの罰はあろう。だから夜陰に乗じて坊ちゃんを隠すのだ。隠すと言っても私の里に預けるのだが。きれいな子なので欲しい人はすぐ見つかるだろう。
お屋敷を離れると小さな影が現れた。小声で阿道かと問うと影が頷く。山の道は里への近道だが危険も多い。賊や獣、あやかしに遭うやも知れぬ。阿道は十を過ぎたばかりだが、山の道に明るいので案内を頼んだ。私は夜目の利く阿道に導かれ、山の細い道を上り下りした。湿った森の匂いが全身を覆う。夜鳥が啼くと心底震えたが、足を止めなかった。
しかし、だいぶ歩いてそろそろ里に近い野に出るはずなのに山の気配が途切れない。ふと不吉が胸に兆し、まだ歩くのかと阿道に問うと返事がない。足を止めると後から生臭い息を吐く大きな気配が迫っているのがわかった。右手には衝立のよう岩が続き、左手は深い谷。前を歩く阿道の影が薄闇に紛れ、細くて高い声が響いた。
「肉の柔らかい女を連れてきたぞ。おれは片方の太股で充分じゃが、分け前は寄越せよ」
魔物にたばかられたか。
私は坊ちゃんを抱きしめて身を固くし、重く鋭い爪に我が身が裂かれる覚悟をした。
「――おい、この赤ん坊はおれの息子ではないか。おまえはおれに、息子を食わす気か」
割れ鐘のような声がし、生臭い風が吹いた。
「我が息子を連れて行く。娘、これは受領の印だ」
坊ちゃんが風で巻き上げられると、額が熱した刃物を押しつけられたように痛み、私はうずくまった。
これが私の額にある赤い爪痕の故事であります。
サラ・ピンスカー『いずれはすべて海の中に』(市田泉訳、竹書房文庫)をご恵送いただいた。ありがとうございます。
奇想の海に呑まれ、たゆたい、息を継ぎ、泳ぎ続ける。その果てに待つものは――。静かな筆致で描かれる、不思議で愛おしいフィリップ・K・ディック賞を受賞した異色短篇集。
書評を投じて掲載された『幻想と怪奇10 イギリス怪奇紳士録 英国怪談の二十世紀』(新紀元社)を受け取りました。
発売日は六月二日の予定です。
評したのはシルビア・モレノ=ガルシア『メキシカン・ゴシック』(青木純子訳、早川書房)です。
(敷いてある布は、北村紗希さんの妖怪手ぬぐい)
www.shinkigensha.co.jp
www.hayakawa-online.co.jp
S・チョウイー・ルウ(陸秋逸)「沈黙のねうち」(“Mother Tongues” by S.Qiouyi Lu、勝山海百合訳、『紙魚の手帖 vol.02』掲載)が、第五十三回星雲賞【海外短編部門】の参考候補作になりました。
www.sf-fan.gr.jp
www.tsogen.co.jp