鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

東雅夫講演会

明治大学和泉校舎で行われた東雅夫講演会「忘れられた幻想文学の作品を発掘する」を聴講に行った。先に準備されていた会場の教室(第三校舎21番教室)は、長テーブルをロの字に並べて三十人ほどが着席できるようになっていたが、開演直前にすぐ近くのもっと広い教室(23番教室)に変更になった。(各机にヘッドフォンが付属していたので、普段はヒアリングの授業で使われているようだった)
本日十月八日は、台風十八号による強い雨と風が予報されていたので、明治大学の講義は全て休講だったそうだ。講演会の行われる午後四時には、風は強いが台風一過の澄んだ青空を見せていた。
本公演会のコーディネーターは同大商学部教授の高遠弘美氏で、講演会と題されているが、高遠氏が質問を投げかけ、それに東氏が答える形で進んでいった。高遠氏は、東氏と面識を持つ以前から、”自分が何かを書くと――例えば京極夏彦について――さきに東雅夫の名前があって、気になる存在でした”と告白していた。”年配の方かと思っていたら、私よりずっとお若くて、素敵な方でらして”とも。
最初に東氏に十歳以降の読書と仕事について一渡り語ってもらったあと、高遠氏との質疑応答があった。そこから派生した発言も含めた中で自分が興味深く感じたものを取り上げる。(簡単なメモと記憶で書いているので不正確かもしれない、ご容赦を)


S-Fマガジン』で「ホラー時評」を連載しているとき、自分か日下三蔵が一番最後に原稿を入れることで有名だった。『ムー』の取材で、険しい山の中なんかで石碑を調べていると、携帯にマガジンの塩澤さん(当時の編集長)から電話がかかってきて、「あの……締め切りがだいぶ過ぎているんですが」と言われて、でもどうしようもなくて「すみません」としか言えなかった。
(『S-Fマガジン』の原稿料は『幻想文学』と並ぶくらい安く、時評で取り上げる本代も自前だったそうだ)


高遠氏の質問「現在の幻想文学に欠けているものはなんでしょうか。忘れられた優れた作品を複刻することで、何が欠けているか明らかになるのでしょうか」
東氏の回答「文体(即座に)。文体がおざなりにされている気がする。復刻された過去の優れた作品に触れて、文体の魅力というものを再発見出来るのではないかと思います」


高遠氏の質問「東さんを根底で支えている物はなんでしょう」
東氏の回答「文学的至福を共有したい衝動が根っこにあるし、色んな人たちとの出会いも重要な気がします。方向性に共感をもって仕事をさせていただける出版社があることも」「紀田(順一郎)さんとかの先達の仕事に励まされます」


高遠氏の質問「若者にメッセージを」
東氏の回答「自分も若い頃は何がしたいかわからなかった。怪奇幻想が好きなだけで。でもそれじゃ”趣味・読書”になっちゃう。アンソロジーを作ったり、紹介記事を書いたりしているうちに、こういうことがしたかった! と気付いた。やりたいことを模索しつつ、続けていたら深まった。自分の好きなことを突き詰めていくと形が見えてくるんじゃないかなあ……」


聴講者から、伝奇ノ匣の『伊佐名鬼一郎全作品集』は刊行されるのかとの質問があったが、「そのうち出したい」とのことなので、伊佐名ファン(というか牧野修ファン)は気長に待つといいことがあるかも知れない。

明治大学の学生、院生の他に、聴講者の中にはてのひら怪談超短編の書き手の方々も見受けられた。みな熱心に耳を傾けていた(ような気がする)。

間もなく刊行の『日本幻想作家事典』(国書刊行会)と、県立神奈川近代文学館で開催中の「大乱歩展」の案内が配られた。

東雅夫の原点ともいうべき同人誌『金羊毛』を触らせてもらった。

画像は講演を終えた東雅夫氏。
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