鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

マーティンズとハーリング(決勝戦)

ダブリンで開催されたワールドコン、メイン会場のコンベンションセンターダブリンの一隅にMartin's というバーがあってビールが飲める。ビール以外のメニューもあり、隅のほうではデニッシュのような軽食も売られている。天井は高く広さはあるが椅子は少ないので、運良く椅子を得た参加者は根っこが生えて動かなくなる。壁際で床に座り込んでいる参加者もいる。円卓に十人くらいがみっしり座っているのは降霊会でもしているのかと思ったら、作家を囲んでビールを飲みながら(ビールでなくてもいいし、お茶でもいい)語りあう企画の一つだった。窓がなく照明も控えめだが、大きなスクリーンがあり、八月十八日はアイルランドで人気の伝統スポーツ、ハーリングHerling の決勝戦の生中継が映し出されていた。そういえば前日も「明日はダブリン市内でハーリング勝戦が行われるため交通渋滞が予想されます、ご注意下さい」とアナウンスがあった。
ハーリング、まったく知らない。サッカー場より広い芝生のコートを、短いオールのようなスティックを持った男たちがボールを追って走っている。じっと観ているとルールがぼんやりとわかってくる感じ、高山羽根子の架空のゲームが出てくる短編を読んでいるときのようだ。アイルランド人参加者のグループが熱心に見ていて、ゴールが決まると、うぉ、と低い声がユニゾンする。決勝戦はキルケニー対ティペラリー Kilkenny vs. Tipperary 。どちらも地名だ。各地区最強のチームが全国大会に出場し、その年のアイルランド最強が決まる――とあとで調べて知った。キルケニーは強豪で何度も優勝している。キルケニービールはパブでよく目にする。
カウンターでビールを飲みながらスクリーンを観ていた。グループを代表して飲み物を買いに来たアイリッシュに、「ハーリングのルールはわからないけど、楽しい」と言うと、嬉しそうに「あそこにゴールを入れると三点で……」などと解説してくれた。

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Martin's Bar. Worldcon Dublin 2019, CCD.
画像は、バーの棚に掛かったマーティンの写真(パンダのぬいぐるみと一緒)と、ハーリングの決勝戦が映っているスクリーン。このバーは故人であるSFファン、マーティンを偲んで命名されている。
スーベニールブックの物故者リストのお終いに彼の名前 Martin Hoare があった。二〇一九年七月二十六日没。

勝敗はまだ決まっていないが夕食を求めて市内に出ると、キルケニーやティペラリーのチームカラーを身に纏った人達でいっぱいだった。