鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

A Husband's Return / もののふの帰還

  もののふの帰還 Toshiya Kamei  勝山海百合訳
 
「お早いお帰りでございますね、わが殿」
 シズカは頭を下げてあるじを迎えた。彼女のきものが衣擦れの音をたてる。もののふであるあるじは暗闇の中に立ち尽くし、虚空を見つめている。
「いつお帰りになられたのです?」
 彼の甲冑の紐は擦り切れて古び、金具は錆びているように見えた。胡粉のように血の気のない顔にシズカは息を飲む。
 彼は外に出た。牝鶏が鳴き声を上げ、激しく羽ばたきをする。シズカは提灯をつかむと、彼を追って裏庭に急いだ。薄明りが鶏小屋の脇の大きな血だまりを浮かび上がらせる。シズカはこの尋常でない出来事が、いつもの悪い狐の仕業であればいいのにと願った。
 そのとき稲光が走った。死んでいるとしか思えないあるじの姿を照らしだす。血は彼の胸に開いた大きな穴から噴き出していた。


原文 "A Husband's Return" は『Home: An anthology of dark microfiction (Hundred Word Horror) 』(English Edition)所収。(カメイさんの許可を得て公開)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08V881428