鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

TECOLOTE Café

堀井和子の『朝ごはんの空気を見つけにいく』(講談社α文庫、二〇〇七年四月初版。底本は二〇〇二年刊行)は、堀井が家族や友人、仕事仲間などの近しい人々に朝食をテーマにあれこれ聞いて、語ってもらい、それをまとめた一冊だ。小学生の二人の女の子(姉妹)がペットボトルに入れた生クリームを代わるがわる振り回して、ときに踊って作ったバターがおいしそうとか、デュアリットのトースターを使うと冷めてもおいしいトーストが焼けるらしいとか、人生の大局には影響を与えないが知っているとちょっと楽しくなるようなことが書いてある。
 本書のお終いのほうに、アメリカはニューメキシコ州サンタ・フェ郊外にあるTECOLOTE Caféが登場する。写真家の長嶺輝明さんとデザイナーの若山嘉代子さん(デュアリットのトースターを著者に薦めた人)が「印象に残っている朝食」の質問に別々に回答したのが、偶然同じ店なのだ。朝から午後早くまでしか営業していない TECOLOTE Café でフレンチトーストを注文すると、「どのパンにする?」と聞かれ、何種類かのパンから選ぶことになる。自家製の〈本日のパン〉から迷いながら選ぶのも楽しい……(ということは、ホテルオークラのフレンチトーストのようにパンを丸一日卵液に浸したりはしないで、映画『クレイマー・クレイマー』のように、卵液にさっとくぐして焼くのだな)
 自家製パンに特製の卵液をまとわせ、こんがりと焼きあげられたフレンチトーストには、ホイップバターと温かいシロップを添えていただく。
 いつか行って食べてみたい、そのうち行くだろうと思いながら十年以上。二〇二二年二月現在、日本国内の移動もままならず、国境を超えるのはもっと難しい。そこで、そういえばあの店はどうしているのだろるとインターネットで検索してみたら、SNSに投稿される画像で多いのは、大きな皿に薄く大きなパンケーキ、そこに煮た豆、玉子、ソーセージが盛られたものだ。牛肉のステーキに揚げたじゃが芋が添えられたものもある。フレンチトーストもメニューにはあるが、大人気でもないのかも。若山さんがTECOLOTEのことを最初に著者に話したのが一九九〇年代のことらしいので、この二十年余で店の雰囲気や事情が変わったりしたのかも……。わからんけど。そして、初めて検索して数分で既に閉店したことを知り、TECOLOTE Café のフレンチトーストは幻の味になってしまった。
 ちなみにtecoloteはスペイン語でフクロウ。