鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

ペンギンの憂鬱

何年か前、日本に住んでいるウクライナ人の若い女性と話したことがある。ウクライナ出身と聞いて、咄嗟に口から出たのは「レム……はポーランド人ですね」であったが、「ポーランド! 近いです」と気を遣われてしまった。「アンドレイ・クルコフの『ペンギンの憂鬱』(新潮クレスト・ブックス)をずいぶん前に読みました。面白かった」「今度読んでみます」というような、手探りの世間話をした。
彼女はときどきウクライナに帰ると言っていて、ご当地ではなにがおいしいかと尋ねたら、「お菓子がおいしい、チョコもケーキも。ケーキはちょっとどんなか説明しづらいんだけど、クリームたっぷりで、どれもおいしくて、ウクライナに行くと食べ過ぎちゃうんですよ」と言った。頭の中に、しっとりと重く甘いケーキが現れた。彼女が言っているのとは違うものかも知れないが、チョコレートケーキにホイップクリームが添えられたものだ。黄色っぽい照明の喫茶店でいただくところまでは想像できたものの、ウクライナ情報が欠けているので、ヘルシンキの老舗、カフェ・エクベル(cefe EKBERG, Helsinki, Finland)で補う。実のところエクベルは外から覗いたことしかないので、ガイドブックや写真集のイメージを流用する。結果、ウクライナのケーキはおいしいに違いないと決めてかかる。
ウクライナ、行かなくては」
「いつか行って下さい」

 ロシアに攻撃されるウクライナのニュースを見聞きするたびに、念じるだけで戦争を止められない自分の無力さにがっかりする。戦争反対。