鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

ジョークを言い続けよう

ウクライナ出身の Alex Shvartsman が編集長を務める アメリカのSF誌 Future Science Fiction Digest (UFO publishing)、最新号 issue 14 のまえがきによると、編集長はロシア軍のウクライナ侵攻に心を痛めている。
future-sf.com

一部を引用して日本語で紹介する。

 今号、校了に集中するのは難しかった。
 文章をタイプしていたとき、私の故郷であるウクライナオデッサは、ロシア軍の侵攻に備えていた。私が幼い時分を過ごした馴染みの深い街路や景色は、土嚢(どのう)と対戦車バリケード、対戦車地雷であふれた。初めて目にする現実のシュールな光景だが、私は見たいと思ったことなどない。
 私が掲載作を校正しレイアウトしていたとき、ウクライナの小悦家と翻訳家は自宅から離れて避難することを迫られていた。彼らは西ウクライナへの道を探し、あるいは国の外に出て、財産と彼らの人生そのものを置き去りにすることを余儀なくされた。留まることにした人々は、電気と清潔な水を失い、爆撃を避けるために地下鉄の駅で眠り、一九四五年以来の、ヨーロッパで最大の戦争の最前線で戦っている。

アメリカ合衆国のニューヨークに住む編集長は、戦線離脱を許されないウクライナの同胞を思い、安全な場所でSF雑誌を作ることに後ろめたさを覚え、こんなことをしている場合かと迷うものの、自分で打ち消す。

 しかし、それは重要なことなのだ。戦争や他の災難にもかかわらず、私たちは芸術を生み出し、物語を語り続けずにはいられない。それは私たちが世界と自分たちの最高のものを分かち合う方法であり、私たち――読者と作家のどちらも――が人間性を保ち続ける方法でもあるのだ。私たちはあらゆる種類の物語を分かち合い続ける必要がある。陰鬱な、悲哀に満ちた、ためになる、楽観的、そして希望に満ちた物語を。私たちは悲観的な世界に抗い、冗談を言い続ける必要がある。
 地球全土の物語や声を共有することは、これまでになく重要になる。

今号のカバーアートはウクライナのアーティスト Oleksandr Kulichenko の作品で、次号にもウクライナ人の作品を訳載する予定。ウクライナ語、ロシア語の小説家と翻訳家は投稿の検討を。Future Science Fiction Digest は、ロシアやベラルーシの、戦争を支援しない作家の小説はここれからも掲載するし、その機会が訪れたとして、北朝鮮、イラン、ドンバス地方、ベネズエラの作家が心に響く物語を書いているのであれば、喜んで出版するそうだ。
Future Science Fiction Digest-Issue14 (March 2022) は発売中。ラヴィ・ティドハーも載っている。
https://www.amazon.com/Future-Science-Fiction-Digest-Issue-ebook/dp/B09VL4RPQK/