鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

まぼろしメッチェン

『幽』十一号掲載の「菊と猿」は、最初、全く違う展開を構想していた。仮題は「綾織メッチェン」(綾織は地名。メッチェンは若い女性のことで、旧制中学の学生などが「あのメッチェン、おまえに気があるんじゃないか」というように使った)、主人公がチェックのスカートをはいて釜石駅から汽車に乗るところまでは同じだが……岩手の親の家に来ていたときに考えていたので、アイデアを家族に話したところ、反応が芳しくなかった。母親など、オチまで言ってもきょとんとしている。どんどっぱらいと言って、ようやく、「……にわかには信じがたい」という感想が漏らされたに過ぎなかった。しかも、「メッチェン」なる語、私は子どもの頃に母親から教わったのだが、母親は「そんな言葉、知らない」とかたくなに言い張るのだった。
家族の反応を参考に、別の話を考えることにした。
翌日、家族で遠野の荒川駒形神社に行った。歴史のある神社で、馬の神様(近年では牛を飼っている人にも信仰されている)だが、お参りした理由はなんとなくだった。山の中の、杉木立の中に社殿があったが、新しいもので(社殿を建てるために切り倒した切り株がいくつもあった)、以前は少し離れた場所にあったそうだ。小雨が降っているなか、急な石段を登ってお参りした。縁日でもないので私たち家族以外はいないだろうと思っていたら、花巻からお参りに来ている人たちがいて、荒川のお駒さんが信仰され親しまれているのが見て取れた。
お参りの後、道の駅に寄って帰ったが、それから駒形神社が頭から離れず、「菊と猿」を書き上げた。
こうして書いていても、「綾織メッチェン」がどんな話だったか思い出せない。


荒川駒形神社