鳥語花香録

勝山海百合の記録

京都SFフェスティバル2021

京都SFフェスティバル(京フェス)は、本年は十月二十三日(土)にオンラインで開催されます。ただいま申し込み受付中です。
編集者の石亀航さんの企画「東京創元社と最新海外SFを語る部屋」(日本時間23:00から一時間)で、少しお話します。企画はZoomミーティングで、質問への回答などはDiscordで行います。
今回の京フェスの参加費は無料ですが、申し込みが必要です。

紙魚の手帖 創刊号

東京創元社の新雑誌『紙魚の手帖』vol.01をご恵送いただいた。ありがとうございます。隔月偶数月刊行の総合文芸誌。

ミステリーズ!」の後継誌ついに創刊。コンセプトは、国内外のミステリ、SF、ファンタジイ、ホラーを刊行してきた東京創元社による「総合文芸誌」。

www.tsogen.co.jp
(英語ではBookworm's Magazine)

『サワー・ハート』

ジェニー・ザンを知ったのは『文藝』二〇二〇年春季号に載っていたエッセイ「存在は無視するくせに、私たちのふりをする彼ら」(小澤身和子訳)でだ。ザンは中国系アメリカ人の詩人、小説家。冒頭で、アイオワ・ライターズ・ワークショップの大学院生だった時、白人のクラスメイトに「君はすごくラッキーだよ。ここにいる誰よりも楽に出版してもらえる」と羨ましがられたエピソードを紹介している。ザンの作品を一読、その才能に驚嘆して思わず出た言葉ではない。エキゾチックさだけをかすめ取ってのことで、かれらはザンには特権があると思い込んでいた。
明晰で痛快で、痛みがあって、強く印象に残り、ザンの短編集が出るのを待ちかねていた。
短編集『サワー・ハート』は買ってから、やおら読み始めた。楽しみにしつつ、すぐには読まなかったのだ。
貧しい少女時代を送ったザンの自伝的な短編集らしいとは知っていたけれど、本当に貧乏だった。両親は中国から体一つ(ただし高い教育があり、英語の読み書きができる)でやってきて、なんとかアメリカに根を下ろそうとしており、周囲の中国人も似たような境遇で貧しい。家賃が払えず、よく知らない人たち(中国人)と狭い部屋に缶詰のオイルサーディンみたいになって寝る生活。幼い頃のザンと思しき小さな子どもは泣いたり、粗相をしたり、湿疹が痒くて眠れなかったり。住んでいたアパートが倒壊したこともあった。想像以上に苦しい生活で、出まかせとも思えない生々しい描写に一度本を閉じて表紙を見た。帯に猛毒青春小説集とある。「心の準備をしてから読んで。」というミランダ・ジュライの推薦の言葉が印刷してあった。先に言ってよ、ミランダ。
しかし面白かった。赤裸々で、身も蓋もなく、瀬戸際。特別に親しいわけでもない同胞であっても、住むところがないと相談されたらなんとか力になってくれる。なぜなら、本当に住むところがないことを知っているから。お互い様なことを身に染みているから。アメリカに渡った少女は、親の都合で中国の祖父母の家に預けられるので、上海の親戚も登場する。やっぱりアメリカの子は違うね、と思われたりしながら、親愛を覚えたりそれほどでもなかったり。
神話を読んでいる感じもあった。成長するにつれて日々世界が広くなっていくという意味では創世神話に近いのかも知れない。
神話的と言えば、「私の恐怖の日々」に登場するスジン。住所を誤魔化して、違う学区の少しマシな中学校に進んだら、そこにスケバン(昭和後半の日本のフィクションにしばしば登場する女子。その地域、学校を支配している、「女の番長」のこと。男だと単に番長)とは書いてないが、そうとしか言いようのない韓国人の美少女が上級生にいたのだ。美しい顔で残虐、恐怖で支配する少女。なんの神か。九十年代のアメリカではあるが、中森明菜南野陽子みたいな少女だろうかと想像する。神話的といえば山口百恵だろうか……と考えて平手友梨奈に落ち着いた。

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ネットワーク・エフェクト

マーサ・ウェルズ『マーダボット・ダイアリー ネットワーク・エフェクト』(中原尚哉訳、創元SF文庫)をご恵送いただいた。ありがとうございます。
一人称が「弊機」の警備ロボットが主人公で、第七回日本翻訳大賞を受賞した『マーダーボット・ダイアリー』の続編。
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Army of Darkness / 古戦場

  古戦場 Toshiya Kamei 勝山海百合訳

 煙の中で火の粉がちらちらと舞う。馬の蹄の音、鬨の声、甲冑の触れ合う音が大きくなる。
「反乱軍だ!」夜の闇の中、ワン将軍とその兵は迫りくる攻撃にそなえた。
 将軍は兵とともに炎に近づいた。凄まじい叫び声が夜気を貫く。剣と剣がぶつかる音。ワン将軍は死の匂いを嗅いだ。すると突然火花が限りなく降り注ぎ、兵士の甲冑と馬のたてがみを焦がした。慌てふためいた一同は、一目散に退却することとあいなった。
 明くる朝、ワン将軍一行がそこに戻ってみたところ、火の気はまるでなかった。ただ、数多のしゃれこうべが黒く焦げた地面に散らばっているだけだった。


原文 "Army of Darkness" は Mythical Beings of Asia (Insignia Stories) 所収。(カメイさんの許可を得て掲載してます)
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Mythical Beings of Asia

Kelly MatsuuraさんのInsignia Stories から、Mythical Beings of Asia (Insignia Drabbles #4)が刊行されました。アジアの不思議な、怖い話をテーマにしたDrabble(百ワードの超短編)のアンソロジー電子書籍のみです。
拙作「家の要」の英訳 "Dollhouse" と、「流されて」の英訳 "Swept Away" がToshiya Kamei の翻訳で掲載です。
(カメイさんはスペイン語の翻訳、日本語の翻訳、英語での創作で大活躍)
insigniastories.com

「家の要」は紅坂紫編『てのひらのうた: 超短編小説アンソロジーKindle版所収。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09BK1SMTK/ref=cm_sw_r_tw_dp_8NC47Q2TZJ2HJB6694N3www.amazon.co.jp