鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

戴思杰 Dai Sijie

十一月十一日。東京日仏学院で開催されたダイ・シージエ(戴思杰 Dai Sijie)の講演"「読書の秋」ダイ・シージエ、映画と執筆の間で"を聞きに行く。同時通訳付き。
ダイ氏は中国人だが、フランス在住の映画監督であり、フランス語で執筆する作家でもある。
代表作は文化大革命時代の自らの下放(知識階級の人間を再教育のために農村に送り込んで労働に従事させること)体験を元に著した『バルザックと中国の小さなお針子』(早川書房)で、本人が監督をして映画にもなっているが、中国での撮影には大変な困難があったそうだ。たとえば、原作には性愛描写があるのだが、中国ではそんな場面は御法度なので(フランス映画だが、撮影は中国で、中国政府指導の下で行われた)、ダイ氏は考えて、「中国人にはわからないけれど、フランス人には何をしているかわかる」表現を思いつく。さっそく長期間やりとりをしている中国の検閲官に電話をして、「いいことを思いついた、水中でやればいいんだよ」と言ったら、「なるほど、それで水の深さはどれくらいなんだ?」「ええと、一m二十」「だめだ、一m四十だ」とどのくらいの水深なら大事なところが見えないか話し合って、一m三十に決まる。しかし、実際に撮影を行った川は、計ってみたところそんなに深さが無い。仕方がないので、水深が百三十cmになるように川底を掘り下げなくてはならなかった……性には厳しい中国である。そして水中曲芸は達成されたのである。
この映画を観たことがあるが、お針子(小裁縫)という文盲の女性を周迅(ジョウ・シュン)が瑞々しく演じて印象に残っている。
最新作『孔子の空中曲芸』(早川書房)は、明の正徳帝とその影武者達が登場する架空の歴史小説だが、「中国の作家の友人達が書けないこと、読んで嫉妬するようなものを書こう。そう、エロティックだ」と、エロスを目指して書かれたのだそうだ。読んだ感想を述べさせてもらえば、性的にあからさまだが上品でユーモラスだった。

講演のあとでサイン会があり、『孔子の空中曲芸』を手にして列に並んだのだが、誰もがフランス語でダイ氏と話しており、フランス語はさっぱりなので緊張した。順番がきたので拙い中国語で「ニーハオ」と挨拶する。間違って本を逆さまに渡してしまい、すみませんと慌てたら「大丈夫だいじょうぶ」という意味の中国語を呟かれてほっとする。中国語会話も出来ないが、フランス語よりは耳に慣れているせいだ。嬉しくなって拙著の表紙画像を見せて、「コレ、ワタシノ本、ハヤカワショボー、昨日、キノウ」と身振り手振りで説明すると、「あー、これかこれか」とわかって、笑って親指を立ててくれた。握手をして「謝謝」と言って後ろの人に順番を渡したが、どうして拙著を持参して献本しなかったのかと激しく悔やんだ。(追記。興味のない、読めない本をもらっても迷惑だろうから、これでよかったのだ)
ちなみに十二日には慶応義塾大学で講演するそうだ。

画像は戴思杰先生にいただいたサイン。謝謝、多謝!

http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/112570.html
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孔子の空中曲芸

孔子の空中曲芸