鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

画皮 あやかしの恋

二〇〇九年七月のエントリに、拙著『十七歳の湯夫人』の購入特典のサンプルがある。『画皮』という、途中までしか観ていない、当時は本邦未公開の映画と短編「十七歳の湯夫人」について書いている。
以下は再掲。『聊斎志異』のどれかが原作は「画皮」が原作。チェン将軍はワン将軍の間違い。監督の陳嘉上はゴードン・チャンとも。

「十七歳の湯夫人」
 人助けが仇になり訪れる危機。身内に入り込んだ危機にどのように対処するかがテーマ――ではなく、美しい女の姿に惑わされるのも仕方がない、人間だものという話。
名詮自性という言葉がある。名前に本性が暗示されるという意味で、中国の古い怪談を読んでいると、名前からして水妖や妖狐の化身とわかる人物が登場する。本作に登場する班銀牙は、姓が班(斑と同音。まだらのこと)、名前は銀の牙で、虎が本性なことを姓名で示す伝統に則った。ちなみに湯夫人は桂芝という名前だが、桂はキンモクセイ、芝はキノコの意味がある。
 南條竹則氏が解説でシェリダン・レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』と同工異曲と書かれていたが、『カーミラ』よりもっと拙作に似ていると思われるのが陳嘉上監督の映画『画皮 Painted Skin』(2008)だ。
 チェン将軍が山賊のアジトを暴いたら美しい娘が捕らえられていたので保護し、妻に世話をさせるが、実はこの娘は……というプロローグ。美しい娘(拙作でいえば阿露)を周迅(ジョウ・シュン)、チェン将軍の妻(拙作でいえば湯夫人)を趙薇(ヴィッキー・チャオ)(最近では『レッドクリフ』に孫権の妹・尚香の役で出演した)が演じている。娘と妻が姉妹のように仲良くする場面もあるが、似ていると言ってもこのあたりまで。『画皮』は妖魔や魔術師? 男装で旅する美少女なども登場し、怪異あり、ロマンスあり、アクションありで、CGもふんだんに使われた娯楽大作となっている。
 時代設定がよくわからなかったが、女達の衣装が地味なので漢代あたりだろうか。『カーミラ』が原案のようだが、実は『聊齋志異』のどれかが原作。日本ではまだ劇場公開されておらず、上海から日本へ飛ぶ機上でたまたま観た。座席の前にある小さい画面で夢中になって観ていたが、クライマックスが来る前にプツプツと途切れるようになり、静止画像になり、「ただいまをもちまして機内サービスを終了いたします」とアナウンスされたときは心底がっかりした。(本邦公開の際は魅力的な邦題を希望する)

おしまいに「本邦公開の際は魅力的な邦題を希望する」などとえらそうに書いているが、その『画皮』が『画皮 あやかしの恋』という邦題で公開された。「あやかしの恋」は内容をよく表していると思う。
もちろん観に行った。大画面で、良い音響で観るのは楽しい。どんな話かわかってすっきりしたし、記憶にある場面がなかったり(錯覚?)、あやかしの小唯を演じる周迅(ジョウ・シュン)の脱ぎっぷりの良さを堪能した。
あやかしではないかと疑われた小唯は、「魔物には体にしるしがあるはず」と迫られて脱衣し、あやかしの本性を現すために脱皮してみせるという二段構え。着ている物を脱ぐのはエロティックだが、皮を脱ぐのは違う言葉で言い表さないといけない。エロスではないのは確か。