鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

コマイぬよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」

七月三十日に蔵しっくパーク(ひと・まち交流館)で行われたいしのまき演劇祭2016のコマイぬよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」はたいへん面白かった。
文字で読んで知っていた怪談が、立体的になって目の前に差し出されるのだ。彩色され、膨らみと息吹のあるなにかとして、一瞬だけ立ち現れ、余韻を残して消えていく。それが演劇の特性だと言えばそうなのだけども、語られる(今回はよみ芝居の形での上演だった)ものが、死者の登場する「怪談」、しかも名前のある、身近な死者たちだったりするので、その生々しさと悲しさはひとしおで、はかない。
芝居の演出を事細かに書き記されると興が殺がれると言う人もいるだろうが、一つだけ書いておく。
須藤文音は夢で見知らぬ女にヤカンの熱湯を掛けられそうになるが、急に現れた父親がかばってくれて無事だった。須藤が父親を心配すると、父親は「大丈夫、大丈夫。もう死んでるから」と言って、そこで須藤は目が覚める。
この場面、コマイぬの芝居では、朗読する菊池佳南の背後の障子戸がパッと開いて、白い服を着た男(芝原弘)が明るくにこやかに「だいじょぶだいじょぶ、もう死んでっから」と言う。その言葉によって父親の人柄がしのばれると同時に、その人にはもう痛みを感じる肉体がないという事実がわれわれに突きつけられる。会場が古く大きな日本家屋、いわゆる古民家の、襖と障子に囲まれた畳敷きの広間という特性を活かした良い演出だと思った。
コマイぬ読み芝居で演じ語られた怪談は、『渚にて あの日からの〈みちのく怪談〉』(荒蝦夷)に収められている。
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画像はJR仙台駅の七夕飾り。