鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

漢籍バイヤー

去年出た『幽』9号に書いたエッセイ、拙文を要約すると「近世の怪談には幾つかの型がある、その型の一つの源流は『源氏物語』にある。もっとさかのぼれるかもしれないがここでは触れない」というものだったが、先日、『怪談文芸ハンドブック』を読んでいたら、私がさかのぼらなかったところまで言及されていた。東雅夫は、『源氏物語』の、光源氏が夕顔と荒れた空き家で逢い引きをしていて夕顔が死ぬのは、もののけ六条御息所の生き霊?)に取り殺されたからと理解されているエピソードを、『白氏文書』(唐の詩人、白居易の文集)にある「凶宅」が下敷であり、夕顔が亡くなったのは、逢い引きに使った屋敷がそもそも凶宅であったためとの説を紹介していた。平安文学が大陸の影響を大きく受けて展開していることを考えれば、漢籍に目配せをしなかった自分の不明が恥ずかしい。
『白氏文集』は平安時代に広く読まれていたようだが、こういった漢籍は誰が選んで日本に将来したのだろう。遣隋使や遣唐使の随員だったとは思うが、役人が本屋に行って、「なんでもいいから見繕って」と適当に買ってきたとも考えがたい。限られた時間と予算で、良い買い物をしないといけないのだから、責任は重い。
たとえば張さく(さくは機種依存文字)が著した『遊仙窟』は、日本では読まれ続けたものの中国には残らなかった書物の一つだが、前野直彬によると、張は「即天武后時代の代表的な文人」で、「日本や新羅の使者が入唐したときには、必ず大金をもって彼の作品を買い求めていた」(『幽明録・遊仙窟 他』東洋文庫の「作品解題」より)そうなので、作者買いはあったらしい。目端の利く漢籍バイヤーがいて、「張さく、あるだけ全部」と言って買い占めたり、買おうとしたら「こないだ新羅のお人があるだけもっていったから、もうない」と言われて製本所に直接買い付けに行ったりしたのかと想像してみる。

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怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)

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