鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

空飛ぶエチケット袋

知り合いに、怪談と高い所が苦手という男性がいる。業務上の出張でも、空路以外の手段、陸路か海路で赴くのを常とした。なぜ航空機を利用しないのかと問うと、「怖いから」と答えた。「乗りたくないんです」
だったら、新妻が新婚旅行はハワイ(あるいはモルディブでも沖縄でも)に行きたいと言ったら船で行くのかと聞いたら、「理解ある女性を求めます」みたいなことをごにょごにょ言ったような気がする。箱根や熱海も行きやすくていいものだ。
しかし、ついに、彼も機上の人となるときが来た。空路回避不能な事態となったらしい。
飛行機なんて窓の外を見なければバスに乗っているようなものだ、バスだと思えば平気、怖くないからと先輩風を吹かせてみたら、「具合が悪くなってもいいよう、トイレ近くの席を予約しました」と頭を使ったようなことを言う。ひどく揺れるときは、シートベルト着用サインが消えないからトイレにも行けないことを知らないのかと思って、いよいよもっていけないときは、座席の前のポケットにエチケット袋という防水の紙袋があるから、それを使えと入れ知恵をした。
「近くの席の人のことは忘れていいから」
たまに、体を折り曲げてエチケット袋と仲良くしている現場に遭遇することがあるが、誰の顔も覚えていない。まして名前など知るよしもない。