鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

リザとキツネとクリムゾン・ピーク

『リザとキツネと恋する死者たち』(ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督)はおもしろかった。人間に災いをなすスーパーナチュラルな存在が活躍するタイプのホラー映画。公式サイトにはジャポネスク・ファンタジーとあった。

1970年代のブダペスト。元日本大使未亡人の看護人として住み込みで働くリザの心のよりどころは、日本の恋愛小説と、リザにしか見えないユーレイの日本人歌手、トミー谷。孤独な毎日を軽妙な歌声で元気付けてくれるが、リザは日本の小説にあるような甘い恋に出会うべく、30歳の誕生日に未亡人に2時間だけ外出許可をもらう。だが、その間に未亡人が何者かに殺害され、さらに彼女が恋した人は“死者”となる、奇怪な殺人事件が次々と起こる・・・。

映画『リザとキツネと恋する死者たち』公式サイト
タイトルにもある通り、じつはこのトミー、日本から流れて来た狐の妖怪なのだ。那須殺生石伝説(鳥羽上皇に仕えた玉藻の前は、正体が狐だと安倍晴明に見抜かれて那須野に逃げる。那須野で成敗された後、近付くだけで人や動物が死ぬ毒を放つ殺傷石に化す)などが絡み、リザ(モーニカ・バルシャイ)はもののけに化したキツネを鎮めるには真実の愛が必要なのだと知る。
思わず笑ってしまう場面の多い、たいへんチャーミングな映画で、監督の日本理解もおざなりではない。資金は不十分だが工夫とアイデアがある。那須という看板が立っているだけで、那須に見えた。山の形が栃木県でないけれど、那須だ。
トミー谷(David Sakurai デンマーク生まれ、父親が日本人)歌唱の日本語の歌はメロディと歌詞の文字数が合わなくて早口な感じがするのだけど、楽しい。(そこを繋げて歌うのか、という軽い違和感もやがて慣れる)

ダンスダンス☆ハバグッタイム Dance Dance Have a Good time

クリムゾン・ピーク』(ギレルモ・デル・トロ監督)を観たら、冒頭に髪を振り乱したヒロインが登場し、回想に入った。『リザとキツネと恋する死者たち』の冒頭でもヒロインが濡れた乱れ髪で登場し、物語は過去に遡る。大きな括りでいえばどちらもホラー映画で、同じように展開しても趣や味わいはまるで異なる。クリシェの扱いかたに作家の個性が現れるのだと感心した。
(トミー谷は、日本画家の金子富之にちょっと似ていた。名前も似ている)