鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

麻疹と猫

仙台市内の書店で行われた怪談会で、最後に司会者が「ご来場のお客さまにも、実はこんな不思議な話をもっている、という方がいらっしゃるのではないでしょうか」と水を向けたところ、挙手して語り始めた少年がいた。「僕が三歳か四歳のころのことなんですけど」と言った途端、同じ会場内から「違うよ、半年」と突っ込みが入った。「僕」のお母さんだったが、とりあえず怪異を語ってもらった。
「僕が小さい頃、麻疹(はしか)にかかって、入院するはずだったんだけど、お母さんの実家で飼っている年寄りの猫が亡くなって、麻疹が治った」
猫が病気を持っていったという話だった。このあと、お母さんに補足してもらったけれど、怪異の筋は一緒だったが、細かいことを聞いたらとても怖い話だった。
お母さんが麻疹にかかり、生後半年だった息子に感染、発病したのだ。
麻疹の予防接種をするまえの乳幼児が麻疹にかかることもあるが、母親から引き継いだ免疫のせいで軽く済むことが多い。しかしこのケースでは母親にはおそらく免疫がない。感染したこの乳児の麻疹は重篤化するおそれが高く、病院側は今後に備えて入院の受け入れ体勢を整え、家族も入院準備をしていたそうだ。ところが、これからどんどん上がると予告されていた熱が下がるという珍しい展開を迎えた。
運良く(老猫の力もあったかもしれない)軽快して医者も驚いたそうだが、悪いことにならなくて良かった。それから十年余ののちの親子は、見たところとても元気そうだった。善哉。「麻疹みたいなもの」という慣用表現があり、麻疹は誰でもかかるものだが、侮れない病気なのは周知されたい。
(記憶で書いているので、細部に誤りがあるかもしれないことを断っておく)