鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

麻のシャッツ

  麻のシャッツ  勝山海百合

拝啓 梅雨が明けて暑いことかと思います。
つつがなくお過ごしでおられますか。
周さんが涼しくて好いとおっしゃった麻のシャッツ二枚送ります。冬に織った布で縫いました。ぶかっこうでごめんあそばせ。洗っても色が悪いときは灰汁で煮るとよろしいのでそうなすってネ。そうそう残念なことですが麻畑が荒らされてしまったので来年はシャッツが作られないかもしれません。今お持ちのシャッツをどうか大事に着て下さいネ。それにしても刈り取り間近になって荒らされ本当に口惜しいことです。蒔き直す時間もありませんもの。こんないやがらせをしてなんの益があるのでしょう。もし私達が世間に思われるようにトモを使っているというのなら恨まれ仕返しされるとは思わないのでしょうか。誰がやったのかもわかってますのにあさはかなことです。
でも周さんご安心下さい。こんなことでトモを動かしたりはいたしません。あれを出すまでもなくやられた分だけ返します。少しは多めになるかもしれませんがそれは仕方がないことです。お金でも借りたら利子がつくものですから。周さんが学士様におなりあそばさしたらみな伏して拝むでしょう。その日が楽しみです。
つまらないことを書いてしまいましたがこちらは皆息災であります。学校のお休みには戻っていらしてネ。周さんがお帰りになったらトモも山から出てきてウナキなぞを取ってくるでしょう。トモも周さんが好きなのです。四つ足でも大きななりでもアネッコなのです。せんだってふざけてオメラシク爪を立てましたのでこらしめてやりましたがけものに見えても血を分けたはらからはめんこいものです。
どうかお元気でお過ごし下さい。かしこ。

周悟様 御許へ
      ヒデ子姉



高橋克彦赤坂憲雄東雅夫編『みちのく怪談コンテスト傑作選2010』(荒蝦夷)所収。