S・チョウイー・ルウの短編「愛に似たなにか」(勝山海百合訳)Anything Resembling Love by S. Qiouyi Lu (translated by Umiyuri Katsuyama) が掲載された『ナイトランド・クォータリー 暗黒のメルヘン〜闇が語るもの 』vol.30(発行アトリエサード/発売書苑新社)の見本が届きました。発売予定は九月九日です。
同誌には作品の簡単な解説と、ルウの略歴、現状も書いておりますので、是非そちらもご一読ください。
Anything Resembling Love の初出はTor.com で、編集者はジョナサン・ストラーン。
F-CON 来場御礼
福島県のばんだい熱海温泉華の湯で開催された第五十九回日本SF大会 F-CON にご来場いただき、ありがとうございます。企画やサイン会も盛況でした。スタッフ、参加者、ゲスト、の皆さま、お世話になりました。ありがとうございます。
星雲賞海外短編部門の参考候補作だったS・チョウイー・ルウ「沈黙のねうち」は、受賞しませんでした。応援ありがとうございます。
会場の温泉ホテルのお風呂、たいへん好いお湯でした。
(ちなみに来年のSF大会は、第六十一回日本SF大会Sci-con2023、埼玉県の浦和コミュニティセンターで八月五、六日開催予定)
帰宅したら、Kaguya Booksのクラウドファンディングでご支援いただいた方へのリターン、エッセイ集『私の小説の書き方』の見本誌が届いていました。拙稿「炭酸水にレモン」も載っています。
ナイトランド・クォータリーvol.30【予告】
Anything Resembling Love (by S.Qiouyi Lu) の拙訳「愛に似たなにか」(S・チョウイー・ルウ/陸秋逸)が掲載された『ナイトランド・クォータリー 暗黒のメルヘン〜闇が語るもの 』vol.30(アトリエサード)は、九月九日頃の発売です。
さよなら、メリッサ・バンク
『娘たちのための狩りと釣りの手引き』“The Girls’ Guide to Hunting and Fishing” の作者メリッサ・バンクが亡くなった。六十一歳。八月五日付ワシントンポストの Harrison Smith の記事によると、八月二日にニューヨーク州ロングアイランド、イーストハンプトンの自宅で肺がんのため息を引き取ったとのこと。
www.washingtonpost.com
ずっとまえにソニー・マガジンズから出た邦訳(一九九九年、飛田野裕子訳)を読んで印象に残っていたが、バンクその人のことはまったく知らなかった。肺がんと闘病していたことも、乳がんサバイバーであることも。
久しぶりに『娘たちのための狩りと釣りの手引き』を読み返してみた。本書はアメリカ人女性ジェーン・ローズナルの年代記になっており、十四歳のジェーンが三十代の勤労女性になるまでを描いた複数の短編に、ジェーンが背景に出て来るだけの近所の家族の話と、名前のない女性「あなた」が乳がんにかかる話が差し挟まっている。この「あなた」はメリッサ・バンクその人のことではと思い当たり、初読のときとは別の緊張感をもって読んだ。
ニューヨークに暮らす聡明でユーモアのある女性の生活、仕事、人間関係が生き生きと描かれていて面白いし、すぐにジェーンが好きになる。その印象は再読でも変わらないが、思っていたよりも生病老死に彩られた一冊だった。マンハッタンで優雅な一人暮らしをしている高齢の大伯母、家族の病気や、うんと年上でキャリアはあるが持病もある男性との恋愛、日常生活に割り込んでくる病気……自分の読者としての経験値が上がったせいもあり、解像度が上がって、以前よりずっと切実に感じられた。まえはぼんやり読んでいたとも言えるが。
自分たちと年の近い男性を、交際していると娘に紹介された両親は、表向きは丁寧に接するが賛成していない。二人が別れたあと、ジェーンは父親にわたしたちが別れてほっとした理由を尋ねた。年上の恋人にはありふれているが侮れない持病がある。
「自分の健康状態に無頓着な彼を見て、いずれ誰かが面倒を見なければならなくなると思ったんだ。(略)荷を背負うのはおまえしかいなくなる。父さんは、おまえにそんなことに自分の人生を費やしてもらいたくなかったんだ」
恋愛に夢中な時期は、こういう心配が鬱陶しいし言われてもピンとこないものだ。娘の決めたことを尊重したいが、人生経験から「その先」の厳しさも知っている中高年の父親ならではの葛藤も。
表題作「娘たちのための狩りと釣りの手引き」は掉尾に置かれている。友人の結婚式に参列したジェーンは、そこで一人の男性と知り合う。結婚披露パーティーから帰ろうとしたジェーンをロバートは駐車場まで送ってくれるが、ジェーンの愛車は傷だらけで旧型のフォルクスワーゲンのラビットで、車内には防犯のため十回分ほどのファストフードの包み紙が散らばっており、濡れたプードルのにおいがする。
「プードルを飼っているの?」ロバートは訊いた。
「そう、スタンダードの」わたしは言った。「名前はジェザベルよ」
自分もスタンダード・プードルと育ったから、スタンダード・プードルは大好きだ、君の犬はどんな色、とロバートは言った。プードルが好きなストレートの男性には、初めてお目にかかった。
この場面を読んだとき、ちょっとした驚きがあった。プードルが好きだと男性が言うと同性愛者と思われるかも知れないのか! そしてスタンダード・プードル! 可愛いけど大きい犬を、都会の一人暮らしの女性が飼うんだアメリカでは。
(余談だが、拙作「もう一度ビーチで遊びたい」にスタンダード・プードルが登場するのは本作の強い影響である。日本語では未発表だが英訳 "Once Again on the Beach" はこちら)
webarchive.nla.gov.au
一九九四年、マンハッタンで乳がんの放射線治療を受けた帰り、自転車に乗っていたバンクは車にはねられ、脳震盪のしつこい後遺症に苦しめられる。じつはこの事故のまえから、失語症(という言葉でいいかわからないが、相応しい言葉がなかなか出てこないとか、忘れてしまうという症状)と頭痛にも苦しめられていたと知った。
読み直しながら、映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(フィリップ・ハラルド―監督)を思い出していた。ジョアンナ・ラコフの回想録『サリンジャーと過ごした日々』(井上里訳、柏書房)が原作で、一九九〇年代にニューヨークの文芸エージェンシーで編集アシスタントとして働き始めた若い女性ジョアンナ(マーガレット・クアリー)が主人公。一九七二年生まれのジョアンナ・ラコフと一九六〇年生まれのメリッサ・バンクがニューヨークの書店ですれ違った可能性は高いだろうと思った。
現在、『娘たちのための狩りと釣りの手引き』は書店に流通していないので、文庫本になったらいいのにと思う。(実は持っていないので図書館で借りた。図書館ありがたい)
朧木果樹園の軌跡【見本到着】
拙作「その笛みだりに吹くべからず」が収録された、井上彼方編『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books 発行、社会評論社発売)の見本が届きました。
画像左側はクラウドファンディングでご支援いただいたかたのための特装版(通常版のカバーの上に、特捜版が重ねられて二重になっています)で、デザインは浅野春美さん。特装版にはサインをしてから勝山を指名した皆さまへ発送されます。お待ちください。ありがとうございます。
書店での発売予定は八月二十九日ですが、八月二十七、二十八日に福島県のふくしま磐梯熱海温泉で開催される第五十九回日本SF大会F-CONでも販売を予定しております。この大会にはわたしも参加予定で、「新SFレーベル Kaguya Books 始動! 刊行ラインナップを作家と語る」というバゴプラの齋藤隼飛さんの企画に登壇します。サイン会もします。
『世界の終わりの天文台』解説公開
リリー・ブルックス゠ダルトンの『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳、創元SF文庫)に書いた解説が公開されました。
www.webmysteries.jp
www.tsogen.co.jp