鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

一年前

 昨年のちょうど今ごろ、第二回『幽』怪談文学賞の選考会が行われた。その結果、拙作「竜岩石」が短編部門の優秀賞を受賞した。
 拙作が最終候補作品に選ばれてから、ここまで来ただけでも嬉しい・受賞は難しいだろう・でも受賞を逃して次はあるのか・授賞式には和服を着ようとさまざまな考えが浮かんできて心が落ち着かなかった。原稿はすでに手を離れ、取り戻して書き直すことも出来ないので、選考委員のお眼鏡に適うことだけを願い、このことはあまり考えないようにしたが、時々ふと思い出して動悸がした。旅行先のニュルンベルクで、回すと願いが叶う鉄の環があると聞いて激しく回してみたり、運気が揚がるらしいとトイレ掃除に精を出してみたりした。
 当日は普段通りに過ごし、夜の七時あたりから連絡を待った。十時過ぎ、諦めた頃にweb幽を見たら結果が発表されていた。優秀賞だった。ほっとしていたら編集部から入賞を知らせる電話が掛かってきた。携帯電話のディスプレイに「ダ・ヴィンチ編集部」と表示された(まえに『ダ・ヴィンチ』編集部と連絡を取ったことがあるので登録していた)ので出る前にそれとわかった。もう深夜だった。

 新人賞を受賞したことのある人に、受賞の連絡が来る前に、何か虫の知らせめいたものがあったかと聞いたことがある。何人かに聞いたが全員が「ない」と言った。死んだ祖母が夢枕に立ったとか、ブーツを履く前に逆さまにしたらサソリが出てきたとか、そういうことはなかったらしい。私にもなかった。期待と予感はあったが、期待の方が大きかった。その期待が大きくなると、良い結果でなかったときに失望も大きいと自分を諫めた。

 受賞を知ったずっとあとで、短編部門で大賞を受賞された雀野日名子さんが、受賞を知らせる電話を、どうせ落選の報せに違いないと出なかったと知った。落選しても連絡があるとは知らなかったので驚いた。電話の前に結果を知っていたから安心して出られたが、結果を知らなかったら、そのうえ落選でも連絡があると知っていたら手が震えて電話に出られなかったかも知れない。