鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

「熊とり猿にとられしこと」現代語訳

只野真葛『奥州ばなし』より
五「熊とり猿にとられしこと」

 これはあや子【筆者】がこちらに来た翌年にあったことです。二人組で熊を捕る狩人がありましたが、熊を求めて山を歩いていると、大木の根元に穴があって、その木の幹いちめんに爪でひっかいた跡があるのをみつけて、一人が、「これをとろう」と言ったのですが、もう一人が「やめよう、これは猿の仕業だ」と言って、同意しなかったので帰りかけたのですが、言い出した方は、気が済まず、「自分は一人で行ってとる」と行ってしまい、その夜は帰ってきませんでしたので、これは猿にとられてしまったに違いないと、他に二人をたのんで三人連れで行き、熊をとるときのように、穴に長柄の鑓を突き入れて殺しました。中に入ってみたところ、昨日来た人は、取って食われたらしく、身に帯びていた横差しと帯だけが穴の中にあり、他のものはありませんでした。みな猿が食い尽くしてしまったのです。その猿は九尺【約二・八m】ほどもあったと聞きました。猿というものは大食と決まっておりますが、食べるものがないときは何日も食べないでいられるのだそうです。山に住む獣は、里のものなどとことなるところがあって、おかしな不思議なことではありますが、大食【「七ヶ浜」のこと。「七ヶ浜」現代語訳 - 桑田碧海録】の次に書き記します。