鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

映画『趙氏孤児』

知り合いが映画を観に行ったら、涙腺が緩みそうになる場面に限って幼い子どもが「ママーママー」と泣くので映画に集中できなかったと憤慨していた。気持ちはわかるし、自分だったらやっぱり腹が立つと思うが、おとなの映画に付き合わされる子どもにも同情の余地はある。
ところで、少し前に上海で映画を観た。『趙氏孤児』という同名の古典を元にした時代劇で、監督は陳凱歌(チェン・カイコー)、主演は名優として知られる葛優(グォ・ヨウ)。かなり脚色されているらしいが仇討ちもので親子の情愛もの、料金がやや高くて座席数の少ないスクリーンで観たのに、携帯電話が鳴ること三回。三回ともちゃんと出て会話を交わしていた。銀幕では一族郎党皆殺し中なのに。嬰児が惨殺されているのに。
乏しい経験からいって、中国で映画を観ると上映中に携帯電話の呼び出し音を三度から五度は耳にする。映画館では電源を切るという習慣がないらしい(徹底されていないのかもしれない)。そしてたいていの映画で、最後のクレジットタイトルは上映されない。紅涙を絞るような映画だったら、涙が乾く前に場内が明るくなるから困ると思っていたら、『趙氏孤児』がまさにそのような、ラストに泣かせが入っている映画で、隣に座っていた中国人男性が、クライマックスで感極まり、映画が終わる寸前に転がるように外に出て行った。私は映画が終わるまで我慢して、彼のあとを追いかけた。