鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

二〇二二年の金木犀

金木犀

金木犀キンモクセイ)が今季二度目の花盛りを迎えている。
金木犀は丈夫なためか、庭木や生け垣、公園でよく見かける。なかには手入れがされてない木もあるが、この木は葉も艶々しており花付きもすこぶる良い。
白い花が金木犀に遅れて咲く、優しい香りの銀木犀(ギンモクセイ)も咲き始めている。

紙魚の手帖 vol.07

紙魚の手帖』vol.07(東京創元社)をご恵送いただいた。ありがとうございます。
十月七日発売予定。

【受賞作決定!】
第32回鮎川哲也賞 選評  辻 真先・東川篤哉麻耶雄嵩
第19回ミステリーズ!新人賞 選評 大倉崇裕・大崎 梢・米澤穂信

【第19回ミステリーズ!新人賞受賞作】  
ルナティック・レトリーバー 真門浩平
●名門大学学生寮で、日食の最中に巻き起こった事件を描く。第19回ミステリーズ!新人賞受賞作

www.tsogen.co.jp

シャーリイ・ジャクスン賞候補

拙稿「喫茶アイボリー」の英訳 “Café Tanuki” (translated by Toshiya Kamei) も掲載されたお化け屋敷アンソロジー Professor Charlatan Bardot’s Travel Anthology to the Most (Fictional) Haunted Buildings in the Weird, Wild World (2021 Edition), Charlatan Bardot & Eric J. Guignard, eds. (Dark Moon) が、シャーリイ・ジャクスン賞 2021 Shirley Jackson Awards【アンソロジー部門】にノミネートされました。
locusmag.com

結果は、今年十月二十九日に、アメリカのボストンで開催されるボストン・ブックフェスティバル 内で発表されます。
『シャラトン・バルドー教授のトラベルアンソロジー 知られざる世界の驚くべきお化け屋敷案内(架空の)』(ダークムーン・ブックス)についての記事はこちら。
umiyulilium.hatenablog.com

眉村卓『仕事ください』

眉村卓『仕事ください』(日下三蔵編、竹書房文庫)をご恵送いただいた。ありがとうございます。

仕事仕事仕事ください……。意のままになる奴隷を求めた男の前に現れた“やつ”は仕事を求め続ける……。表題作ほか、不思議で哀切なる猫SF「ピーや」、恋人との会話がどんどん食い違ってゆく「信じていたい」、戦争の傷痕を異様な迫力で描く「酔えば戦場」などに加え、第一長篇『燃える傾斜』の原型となった「文明考」などの初期未収録作3篇を収録。

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九段下駅

マルカ・オールダー、 フラン・ワイルド、 ジャクリーン・コヤナギ、 カーティス・C・チェン 『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』( 吉本かな、野上ゆい、工藤澄子、立川由佳訳、竹書房文庫)をご恵送いただいた。ありがとうございます。

西暦2033年。米中に分割統治された東京。
特殊刺青片腕遺棄事件、肉体改造者鉤爪暴走事件等に日本人刑事とアメリカ人中尉が挑む。

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登高

  登高    勝山海百合

 九月九日は晴天だった。
 江南に名高い李家も重陽節の登高をすべく、輿【こし】と車を連ねて名園で知られる香山寺に出かけた。大勢の家人も髪に袖に茱萸【しゅゆ】の紅い実を飾ってあとに続いた。
 李家一行は参道の長い石段を登って山門をくぐった。家人らは寺庭に手際よく幔幕【まんまく】を張り、日除けをこしらえ、酒肴の用意をした。香山寺の高僧がやってきて法話をすると、菊花酒の杯をかかげて、長寿と息災を祈念した。
 今年は李家の末っ子、李天賜の最初の登高でもあった。まだ生まれて一年なので乳母の五娘【ごじょう】に抱かれてのことだが、虎の帽子を被り額に菊の花びらを付け、立てば歓声が上がり、歩けば褒められた。
 この日の香山寺には白家も遊んでいたが、李家に仕える若い九華【きゅうか】は、銘木と池の奇岩越しに見える白家の様子が気になっていた。白家では、ついこのあいだまで水妖の怪があったことで知られていた。
「白家のお嬢様に会ったことあるんでしょう? どんな方だった?」
 五娘が九華に聞いた。李天賜が九華の茱萸に手をのばす。その手をそっと押さえながら「輿に乗っているのを見ただけよ」と答える。お姿は見ていない。そもそも良家の御婦人はみだりに人前には現れないものだ。
 九華が不自然にならぬ程度に白家を気にしていると、女中頭の雲梅に、白家へのお遣いを言いつけられた。持たされた蓋付きの籠の中には菊の蕾を模した丸い揚げ菓子が詰まっている。蓮の実に、小麦粉を家鴨の玉子で溶いた衣を付けて揚げた黄色い菓子で、見ただけで口中でほくほくと崩れる蓮の実の感触がするようだった。九華はあとで作り損ねた形の悪いものを食べられるかもと思ったが、努めて顔色に出さなかった。
 持っていった籠は白家の家人に丁寧に受領され、九華は伏し目がちに様子をうかがったが、回らされた幔幕越しに、かろうじて白家の奥様の影が見えたに過ぎなかった。帰りには「使い立てしてすまないが」と柿の実が載った堆朱の盆を持たされた。紅児頭という文字通り幼児の頭ほどの大きさの珍しい柿で、なにやら朱い人の頭を思わせた。
 白家の奥様から戴きましたと九華が奥様方に報告していると、李天賜がよろめくように近づいて柿に触れた。薄い果皮が破れて果汁が迸り、熟柿の甘い匂いが立った。それがあたかも人の頭が割れたように見えて一同が息を飲んだその時。九華の背後に視線が集まり、九華も振り向いた。轟音と供に池に水柱が上がり、白く長い布のようなものが秋空にたなびいた。思わず声が漏れた。
 白家は怖ろしいほど静まりかえっていた。


 (初出『ダ・ヴィンチ』二〇〇八年十月号。短編「竜岩石」の後日譚。)
八百字を越えているが「てのひら怪談」カテゴリーにしておく。