鳥語花香録

Umiyuri Katsuyama's weblog

Frozen Wavelets #6 Winter/Spring 2021

スコットランドの掌編と詩のオンラインマガジン Frozen Wavelets #6 (冬/春合併号) が公開され、拙作てのひら怪談「呪いと毒」の英訳 "Curses and Poisons" (translated by Toshiya Kamei)が掲載されました。

frozenwavelets.com
今回はダブリンのワールドコンでお世話になった、Mari Nessさんとご一緒でした。
マリ・ネスさんの思い出はこちら。
umiyulilium.hatenablog.com


原文「呪いと毒」は『てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選』(ポプラ文庫)所収。
honto.jp

Dream Date / 仕事のあとに

  仕事のあとに  Toshiya Kamei  勝山海百合訳

 雲一つない、晴れた空が広がっていた。屋上庭園では果物と野菜がたわわに実っている。私はタクシーに乗り込む。高層ビルの間の見えない通路を私たちは飛行していく。
 自分のデスクに到着すると、近くの席の同僚のゼビラが顔を上げた。
「アントニア」彼女はそう言って微笑んだ。「週末はいかがお過ごしでした?」彼女は髪の毛を反対側に無造作に流した。彼女の清潔な、石鹸のような香りが鼻孔をくすぐる。
「まあまあってとこかな」私は答えながら頬が熱くなる。「そっちは?」
「まあまあでした」自分の仕事に戻る前に彼女は言った。
 何週間かまえ、彼女の故郷の星には男性がいないのだと話してくれた。
「ゼビラ、仕事が終わったら、軽く食べたりしない?」



原文の "Dream Date"はボスニアの英語文芸誌 Slippage Lit に掲載。(カメイさんの許可を得て公開)
www.slippagelit.com

The Empty Mirror / うつろ鏡

  うつろ鏡 Toshiya Kamei 勝山海百合訳
 
「ハニー、帰ったよ」歌うような調子で声をかけるが返事がない。
 犬が飛ぶようにエントランスに走ってくる。彼の息は荒く、舌がはみ出して垂れている。はしゃいで膝に飛びつく代わりに、唸り、牙をむき出す。
「なにかあったの?」妻が階段を下りてくる。「もう! だれもいないじゃない」追い払う前に犬をぎゅっと抱きしめる。彼女はあなたがそこにいないかのようにそばを通り過ぎていく。
「おーい、スージー、僕はここだよ」声を張り上げ、激しく腕を振って見せる。
 わかったよ、今日のところは君の勝ちだ。
 あなたは閉まったバスルームのドアをすーっと通り抜け、鏡の前に立つが姿は映らない。


原文 "The Empty Mirror"は『Home: An anthology of dark microfiction (Hundred Word Horror) 』(English Edition)所収。(カメイさんの許可を得て公開)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08V881428

Mythical Creatures of Asia 予約開始

Insignia Stories から 電子書籍で刊行される Mythical Creatures of Asia (Insignia Drabbles #3) の予約が始まりました。
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アジアの神話、民話に登場するクリーチャーがテーマの、百ワードの超短編 Drabble のアンソロジーで、拙作の英訳も掲載されております。いずれもリプリントの "Dragon Rock" (Drabble,竜岩石)、”The Early Morning Garden”(Drabble,朝の庭)、”Ginseng Harvest”(Drabble,人参採り)で、翻訳はToshiya Kameiです。

https://www.amazon.co.jp/dp/B093C82WBN

insigniastories.com

「虹色恐竜」先行公開

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虹色恐竜 Caihong Juji by D.A.Xiaolin Spires

四月二十四日、かぐやプラネットで Ⅾ・A・シャオリンスパイアーズ D. A. Xiaolin Spires の掌編「虹色恐竜」(勝山海百合訳)が先行公開されました。(カバータイトルのデザインは浅野春美 Harumi Asano)
同時先行公開は麦原遼「それはいきなり繋がった」。
月額五百円を支払ってかぐやプラネットを応援した人は、一般公開に先駆けて読むことができます。一般公開は約一か月後の予定です。
virtualgorillaplus.com

オリジナルの "Caihong Juji"はこちらで読めます。(英語)
robotdinosaurfiction.com

Ⅾ・A・シャオリンスパイアーズさんの公式サイトはこちら。(英語)
daxiaolinspires.wordpress.com

A Husband's Return / もののふの帰還

  もののふの帰還 Toshiya Kamei  勝山海百合訳
 
「お早いお帰りでございますね、わが殿」
 シズカは頭を下げてあるじを迎えた。彼女のきものが衣擦れの音をたてる。もののふであるあるじは暗闇の中に立ち尽くし、虚空を見つめている。
「いつお帰りになられたのです?」
 彼の甲冑の紐は擦り切れて古び、金具は錆びているように見えた。胡粉のように血の気のない顔にシズカは息を飲む。
 彼は外に出た。牝鶏が鳴き声を上げ、激しく羽ばたきをする。シズカは提灯をつかむと、彼を追って裏庭に急いだ。薄明りが鶏小屋の脇の大きな血だまりを浮かび上がらせる。シズカはこの尋常でない出来事が、いつもの悪い狐の仕業であればいいのにと願った。
 そのとき稲光が走った。死んでいるとしか思えないあるじの姿を照らしだす。血は彼の胸に開いた大きな穴から噴き出していた。


原文 "A Husband's Return" は『Home: An anthology of dark microfiction (Hundred Word Horror) 』(English Edition)所収。(カメイさんの許可を得て公開)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B08V881428